ゴーリーのはなし ~運動特性と必要な身体特性~

2006/03/28

text/ M. Uchitani

 

 

 ルール上男子と女子では若干異なり女子は男子に比べフィールドプレーヤー的な要素は少なくなりますが基本的には似ています。男女ともほとんどが数秒で完結する運動を行っておりエネルギー機構は無酸素性機構に依存していると考えられています(詳しくはこちら)。しかしだからといって持久的な能力は必要ないのかというとそうでもないです。確かにフィールドプレーヤーほどの持久力は必要ないにしても、激しいプレーをした後でもすぐに回復し安定したプレーができ、さらに試合開始から試合終了まで同じ動きをするための持久力は必要になってきます。さらに近年、ゲームのスピード化が進み今後ゴーリーにはより多くの活動範囲とフィールドプレーヤーに近い能力が求められることが予想されます。試合中のゴーリーにハートレートモニター(心拍数をリアルタイムで計測する機器)をつけた実験では何度も200拍/分近い値を示していました。
 では、どのような能力を強化しなければならないのでしょうか?ゴーリーに必要な能力をすべて挙げるには限界がありますので、いくつかピックアップしていきたいと思います。

■筋力及びパワー
 筋力とは、ある負荷を身体が動かす際の、筋肉の収縮力のことを指し、通常その負荷の重量で表します。ゴーリーの場合、フィールドプレーヤーよりも大きく重いスティックを自由自在に扱わなければなりません。したがって腕や肩の筋力を必要とします。特に日本の女子プレーヤーにおいてはこの重いスティックを自由自在に扱うことができるプレーヤーはそう多くはいないはずです。筋力の向上は必須条件です。
 さらにゴーリーはこの重いスティックをただ単に動かすことができれば良いのではなくセーブ時には「速く」動かすことを要求されます。筋力があるだけでは「速く」動かすことはできません。単にどれだけの重さを押したり引いたり、あるいは持ち上げたりすることができるかといったことに加え、ある筋力を発揮した際の、その時の収縮スピードが非常に重要な要素となります。いわゆる「パワー」です。一般的にパワーは「筋力×スピード」で表されます。しかし、この概念ではスピードが遅くても筋力が大きければパワーがあるということになってしまいます。ここで重要なのは「スピード」です。したがって、筋力を発揮して対象物を移動させる「仕事」をいかに短い時間で成し遂げられるか、という仕事率を高めなければなりません。同じ筋力であっても収縮スピードによって速く動かせるかどうかが決まります。

 整理するとゴーリーにとっては、スティックを自由自在に扱える腕や肩周囲の筋力とそれを速く動かす為のパワー、セーブ時に瞬時に移動する為の脚のパワーが必要になると考えられます。

■クイックネス
 ゴーリーがシュートに反応し体を一瞬のうちに適切なポジションに適切なステップで移動させる。すなわち「静」から「動」に移る時の始めの1-3歩の加速の合理性がクイックネスです。筋力とスピードが合成されたパワーの要素と、動く方向に体をムダなく最短距離で向けていく「可動性」が求められます。

■アジリティー
 ゴール裏からトップへフィードが通りさらにウィングポジションへフィードが通りシュートが放たれる。このようなシーンにおいてゴーリーは素早くポジションを移動させ適切なポジションをとり、さらにシュートに対して反応しなければなりません。すなわち「静」→「動」→「静」という単一あるいは連続した「切り換え」の速さが求められます。ここでは「動」の場面ではスピードが重要な役割を果たし、「静」の場面では体勢を崩さないためのバランスが重要な役割を果たします。すなわちただ単にシュートに対して反応する速さだけではなく、素早く移動し適切なポジションをとるための敏捷性が必要となります。

■柔軟性
 動→静の動作の連続の中では、すばやく正確な体勢づくりのために、動的柔軟性が欠かせない要素になります。ここでは静的な柔軟性だけでは不十分であり体の動きをともなって発揮される機能する柔軟性、動的柔軟性を高められていかなければなりません。またゴーリーにとっては瞬時にスティックを適切な位置へ動かす為に肩や股関節の柔軟性がとても重要です。

■ビジョン
 ゴーリーの場合、ほとんどの情報を視覚に頼っています。シューターの動き、カッターの動き、ディフェンダーの動き、シュートフォーム、シュート...様々な情報を視覚から得ています。スポーツで必要となる眼の能力は一般的に「スポーツビジョン」と呼ばれています。よく耳にするのが「動体視力」ですが、これはあくまでもスポーツビジョンのうちの一つに過ぎません。スポーツビジョンには、静止視力、動体視力、運動視標追跡、コントラスト感度、深視力、目と手の協応動作、視覚反応時間、視覚化などの各能力があり状況に応じてこれらの能力を発揮しています。この中で特にゴーリーが強化しなければならないのが動体視力、運動視標追跡、目と手の協応動作、視覚反応時間だと私は考えています。


○動体視力 
眼前に直線的に近づいてくる視標の形状を見きわめる能力です。眼前から一定距離の空間を横に移動する視標の形状を眼の動きだけでタイミングよく見きわめる能力です。
→ボールそのものを眼で追う能力です。


○運動視標追跡 
複数の視標に次々と視線を跳躍させる能力です。
→あるポイントからポイントへパスが飛んだ時にそれを常に追跡しなければなりません。


○目と手の協応動作  
周辺視野でとらえた視標に手で素早く、正確に反応する能力です。
→ボールの軌道にあわせトップハンドでリードしヘッドをボールにあわせます。


○視覚反応時間 
必要な情報を瞬間的に認識する能力です。
→セーブ時だけでなくオフェンス、ディフェンスの陣形や状況を一瞬にして認識します。マークマンがいなかったり、ずれていたりすれば指示を出さなければなりません。