用具の安全性

2004/02/13

text/ M. Uchitani

 

 

 アメリカのNCAAディビジョンⅠに所属する某男子ラクロスチームは、今年からヘルメットを某メーカーの新しいタイプのものに変えた。デザインもよく、従来のものに比べ視野が広いと好評だそうだ。

 しかし、このヘルメットには問題点がある。ラクロス、アイスホッケー、アメリカンフットボールなどのヘルメットを着用するスポーツでは、プレー中にケガをし、CPR(心配蘇生法)を施さなければならなくなった場合、通常はヘルメットを脱がさずに、フェイスマスクのみを取り外し処置を行う。これは、もしも頭や首などに傷害を負った場合、頭や首を固定したままにしなければならないからである。ヘルメットを脱がす際に頭や首を動かしてしまうと、ケガを悪化させてしまう恐れがある(資料1を参照)。

 

 このチームが昨年まで使用していたタイプ(図1)は、人工呼吸を必要とする緊急時においては、矢印の部分を「トレーナーズエンジェル」という工具で切断する。しかし、新しいタイプのヘルメット(図2)は、フェイスマスクがヘルメット本体に埋め込まれるようにネジで固定されており「トレーナーズエンジェル」で切断することができない構造になっているのだ。したがって固定されたネジを工具(ドライバー)で取り外すしかない。しかも電動ドライバーがないと無理だそうだ(図3-6)。いずれにせよ、男子ラクロスに関わるスタッフは緊急時に備え必要な工具を準備しておかなければならない。
 商品開発の段階でこのようなことは想定していなかったのだろうか?疑問が残る。

 

 ここ数年、ラクロス用品を取り扱うメーカーが増え、ヘルメットのみならず、スティックや防具などを中心に各社オリジナルな商品を販売するために、機能性とともにデザイン性が重視されたつくりになっている。アイテム数が増え、自分にあった用具を選べることは選手にとってはうれしいことだが、激しいプレーから体を守る防具には高い安全性が必要であることは言うまでもない。

 来年からNCAA女子ラクロスではアイガードの着用が義務化される。すでにSpring seasonは始まっており、アイガードを着用し練習に臨んでいる。女子ラクロスの選手数から考えてもメーカーにとっては大きなビジネスチャンスである。ヘルメット同様、メーカーには十分な知識のもと商品開発に取り組んでもらいたい。

と、ここまで書き終えたところで、このヘルメットを販売するメーカーがリコールを発表した。内容は、上記の指摘とは違うが、フェイスマスクからスティックが入ってしまう恐れがあるとのことで、新しいフェイスマスクを開発したそうだ。既に購入したものに関してはカスタマーサービスに連絡すれば取り替えてくれるだろう。上記で述べた問題点に関しても改善してくれると良いのだが・・・。

 

 

資料1

NATAは、受傷した選手のヘルメットを取り外すガイドラインを作成した。このガイドラインによると、頸椎損傷の選手からヘルメットを取り外そうとする試みは、すでに存在する損傷を悪化させるか、さらに新しい損傷を生じる恐れがある。指導者が、頭部、頚部の損傷のいずれかあるいは両方の疑いがあるヘルメットを着用している選手に救急処置を施す判断をするときには、細心の注意を払うよう指示されている。医師、またはアスレティックトレーナーあるいは救急救命士などその他の救急医療従事者が実行する以外は、ヘルメットの取り外しは絶対に必要でない限り避けなければならない。


NATA:競技用ヘルメットを取り外すガイドライン
頸椎損傷の疑いがある選手のヘルメットを取り外すことは、すでにある損傷をさらに悪化させるか、あるいは新たな損傷を引き起こす可能性がある。ゆえにそうするほかない場合を除いては競技用ヘルメットの取り外しは避けるべきである。

受傷した選手からヘルメットを取り外す前に、以下のような点を考慮に入れておくべきである。

・ほとんどの外傷はヘルメットをつけたままでも観察することができる。
・神経系テストはヘルメットをつけたままで行うことができる。目の反応性、鼻や耳からの排液、そして意識レベルのチェックが可能である。
・ヘルメットをつけたまま選手をスパインボードに固定させることが可能である。
・ヘルメットとショルダーパッドは背臥位の選手の体位を挙上させる。必要であれば、ヘルメットとショルダーパッドを取り外すが、その際、頚部が過伸展されないようにしなければならない。
・フェイスマスクの除去により気道を十分に確保することができる。フェイスマスクを固定させているプラスチック製クリップは特別な道具で切断することが可能であり、素早い取り外しが可能である。

すべてのケースで、個々の情況に見合った適切な措置が取られるべきである。



出典:Ronald P.Pfeifferら著,平井千貴ら訳:テキスト版アスレティックトレーニング.ブックハウスエイチディ.2000.