Flexibility training

 柔軟性とは、最大関節可動域の中でそれぞれの筋肉と関節を動かす能力である。この柔軟性は、筋力や持久力などといった能力とともにスポーツにおけるパフォーマンスに不可欠なものであり、また、傷害予防の観点からも重要な役割を果たしていると考えられている。

 

関節可動域の制限因子

 関節の可動域を制限する要因は、外的(環境的)要因と内的(身体的)要因に分けることができる。内的要因には、骨、腱、靭帯、関節包、皮膚そして筋などが挙げられる。外的要因として最も重要なのが温度である。身体組織は温められると柔軟性が増す。柔軟性を高める方法としてストレッチングが用いられるが、組織が温められていない状態でストレッチングを行うことは危険である。温められた組織はより柔軟になるが、そうでない冷たい組織は硬いままである。

ストレッチングの種類

 1960 年代前半に運動生理学者Devriesらは、「反動をつけない柔軟運動」に関して発表したが、当時は「柔軟性」という事に関しては、一般の人はもちろん、オリンピック選手などのトップ・アスリートやそのコーチもあまり関心を示さなかったそうだ。1970年代になると勝つために、量的・質的により高度なトレーニングが必要 となり、同時にスポーツ傷害が多発してきた。そして1975年に、Bob Andeson(Robert A. Anderson)が「STRETCHING」という反動をつけないで行う柔軟体操(スタティックストレッチング)の解説書を出版したのを機に、スポーツパフォーマンス向上やスポーツ傷害の予防と治療のためにストレッチングが注目されはじめた。
 1980年代に日本にもその理論や実践方法が広まり、今では多くのスポーツで受け入れられている。また、最近では柔軟性トレーニングの方法として、スタティックストレッチング以外にも様々なストレッチングが行われている。
 以下、代表的なストレッチングの種類と特徴を挙げる。

■スタティックストレッチング
 反動をつけずに静かにゆっくりと行うストレッチングである。この方法は、多くのスポーツ選手が現在行っている反動をつかわずリラックスした状態で、ある一定の時間(例えば15-30秒)姿勢を保持し、伸展させる方法である。
 筋肉内には、筋紡錘と呼ばれる深部感覚を司る感覚受容器が存在し、急激に筋肉を伸展したり無理に伸ばされると、筋紡錘が興奮し筋は元の長さに戻すために収縮を起こしてしまう(伸張反射)。
 柔軟性の面からだけ考えると、スタティックもバリスティックも効果に差がないと言われている。Devriesは、スタティックストレッチングはバリスティックストレッチングと効果に差がないばかりか、次の3つの点で優れていると述べている。1)消費エネルギーが少なくてすむ。2)安全である。3)筋肉痛の予防とその回復に効果がある。しかし、このスタティックストレッチングは、伸張反射(後述)の誘発が少なく、実際の運動に適応しにくい。すなわち、これから運動するときより、むしろ運動後の身体的・精神的リラックスを得たい時に有効であるという考え方が一般的である。

 

■バリスティックストレッチング
 反動をつけたストレッチングのことである。適切に行えば柔軟性を向上させるが、この方法は反動を使ってリズミカルに動かして筋肉や腱を伸ばそうとする為に、予期せぬ大きな力が筋肉や腱に働くことがある。コントロールできない力が働くと、筋肉や腱は損傷を受ける可能性が大きくなる。また、筋肉は急激に引き伸ばされると逆に収縮しようとする性質がある。これは伸張反射と呼ばれ生理的機構によって起こる防御反射の一種である。この伸張反射によって伸ばそうとする筋が逆に収縮することになり、これをさらに伸ばすには、いっそう強い力で引き伸ばす必要があり、筋を傷つけてしまう恐れがある。
 しかしながら、弾みをつけてリズミカルに身体を動かすことは人間の自然な動作であり、スポーツではむしろ伸張反射は重要である。実施するにあたり十分な注意をはらいコントロールされれば、筋や神経をスポーツに適したものにできる可能性はある。

■ダイナミックストレッチング
 筋肉のもつ「相反性抑制(拮抗筋の最大収縮により主働筋の最大弛緩が起こる)」という特徴を利用して行うストレッチングのことである。すなわち、リズミカルに関節を曲げ伸ばしする運動を行い、脊髄反射を活用し脊髄中枢に備わっている相反性神経支配を利用し筋をストレッチングする方法である。
 このストレッチングの方法は、筋肉に収縮刺激を与えるため、これから動員される筋の活性を高めることができる。プレーにおいて高いパフォーマンスを発揮するためには、筋は柔軟性だけでなく弾性力も要求される。弾性力とは、急激な伸張力(スタート、ストップ、ターン動作など)が筋に加わった時に、その負荷に耐え筋を元の状態に戻そうとする力である。自分自身の力で関節を曲げ伸ばしするダイナミックストレッチングは、筋の弾性力を高める効果があるかもしれない。

バリスティックストレッチングとダイナミックストレッチングを明確に区別することは難しい。ダイナミックストレッチングは、ただ単に反動をつけるというものではなく、運動パフォーマンス中に、関節可動域を使い、動作に関連した特殊なストレッチング過程に結びついている。

■PNFストレッチング
 PNFとは「Proprioceptive Neuromusculor Facilitation」の略語で、日本語では「固有受容性神経筋促通法」と訳される。PNFは理学療法のリハビリテーションの一つの方法として考案され発展してきた。
 「固有受容器」は身体の変化を感じ取る受容器で、筋、腱、関節、皮膚などに存在し、筋紡錘や腱紡錘もこれにあたる。PNFは、この固有受容器を刺激することによって、神経-筋メカニズムの反応を促痛させる方法である。
 今日ではいくつかの違ったタイプのPNFがスポーツにおいても使われている。テクニックの名称や方法は様々であるが、コントラクト・リラックス法やホールド・リラックス法などがある。

 

参考文献

Christopher M. norris:山本利春監訳.柔軟性トレーニング.大修館書店.1999
Michael J. Alter:山口英裕訳.ストレッチングマニュアル.大修館書店.2002.
Special thanks/H.Shimono