First Aid

 コーチやトレーナー的役割を担うスタッフ(以下トレーナー)は、ラクロスにおいて頻繁に発生する打撲、捻挫、肉離れ、骨折などといった傷害に関する応急処置について対応できなければならない。


 日本においては、コーチやトレーナーが傷害の診断をすることは許されていない。診断できるのは、医師のみである。しかし、直ちに医師の診察が受けられない場 合は、傷害の全体的な状態を認識することは可能である。応急処置を行う場合、まずはこの認識、評価が重要である。傷害の部位、質、程度などを把握し、どの ような応急処置が必要か、病院へ連れて行く必要があるかどうか、決断を下さなければならない。

1.評価

 傷害の程度を判断するためには、症状や徴候に着目しなければならない。 症状とは選手が主観的に訴える身体状況の変化であり、徴候とは傷害を客観的に評価したもので、 見たり聞いたり触ったりした上で決定されるものである。 選手に傷害を負うに至った経緯と原因を質問する。さらに、負傷した際に聞いた音、もしくは感じたことについても質問する。 筋・骨格系の傷害においては骨折、脱臼、亜脱臼、捻挫、肉離れ、打撲などすべての可能性を頭に入れておく必要がある。

傷害の性質と程度が 明らかになるまでは選手を動かしてはならない。 まず最初に負傷した部位を視診し、負傷していない部位と比較する。目で見ることによって変形や腫れ、色の変化が明確になる。 次に、負傷した際に聞こえた音。負傷時に発生した音は傷害の種類や程度を決定するのに役立つ。 耳慣れないようなきしむ音や、耳障りな摩擦音がした場合は骨折の可能性がある。関節内になんらかの 問題がある場合は関節の音が聞こえることもある。 負傷した際に、切れたり、折れたり、はじけたりするような音がした場合、骨折の可能性も考えられる。

 最後に負傷した部分に軽く触れてみる。触診は見たり聞いたりして得た情報と共に傷害の性質を知るのに役立つ。負傷部位とその周辺部を指先で軽く触れてみることによって、いくつかの要因が明 らかになる。つまり、痛みを感じる箇所、炎症の程度、視診では発見できない変形をみつけることが可能になる。 現場でのすばやい検査と評価によって、次のことを決断するべきである。

 1) 負傷の程度
 2) 応急処置の種類と固定の必要性
 3) 負傷がさらに緊急の医師の診療を必要とするかどうか
 4) 現場から安全な場所や病院などへの移動方法

ただし、これらの認識や評価に必要な知識や技術をもっていない場合、あいまいな評価や判断は避けるべきである。そのような場合はただちに専門の医師に診断を仰ぐべきである。

 

2.応急処置

 RICE処置はスポーツ現場での急性外傷の応急処置として最も多く行われている方法である。RICE(ラ イス)はRest(レスト/安静)、Ice(アイス/冷却)、Compression(コンプレッション/圧迫)、Elevation(エレベーション /挙上)の頭文字を取ったものである。Stabilization(固定)を加え、RICESとよばれる場合もある。


ラクロスにおいて頻繁に発生する打撲、捻挫、肉離れなどもRICE処置が適用される。適切に行うとRICE処置は損傷組織の全体的な量、腫脹、筋スパズム、そして痛みを減じることで損傷のより早い治癒を可能にする。

RICEに必要なもの
 RICEを行う際には、バンテ-ジとアイスパックは用意しておきたい。このほかにもあれば便利なものもあるが、最低この二つは必要である。バンテ-ジはいろいろな長さ、幅、厚さのタイプがあり、部位別に適当なタイプを用意しておきたい。特に肩などはダブルと呼ばれるレギュラーサイズの倍の長さのものが必要になる。固定が必要な場合はシーネやその代わりになるようなものが必要。(雑誌や棒でも代用できる)

 

RICEの手順
 傷害の程度を評価し、RICEを行う。ここで重要なのは前述しているように、傷害の認識、評価である。怪我が発生したからと言って何でもかんでもRICEを適応すればよいというものではない。どのような処置が必要であるかを判断しなければならない。

足関節の内返捻挫を例にとってRICEの手順を説明する。

1.評価を行い、患部がどこなのかどのようなタイプの傷害なのかをチェックする。

2.患部に密着するようにアイスパックを当てる。
※圧迫を優先させる場合は濡らしたバンテ-ジをアイスパックの下に巻いたりパッドを患部に当てその上からバンテ-ジを巻くことがある。
※外側だけでなく内側の損傷も予想される場合は内側にもアイスパックをあてる。

 

3.足関節を90度に保ち、バンテ-ジを伸ばしながら巻いていく。
※固定が必要な場合はシーネや雑誌などで足首をサポートし、その上からバンテ-ジを巻くこともある。

4.患部を心臓より高く挙げる。

※足関節に負担がかからないように毛布などを脚の下に入れる。写真より、もう少し足関節が毛布の上にくるようにする方がよい。        

参考文献
Arnheim DD: Essentials of Athletic Training: C.V.Mosby Company. 1987.
Knight KL.:Cryotherapy in Sport Injury Management. Champaign: Human Kinetics.1995.
Pfeiffer RP, Mangus BC: Concepts of Athletic Training, Second Edition: Jones and Bartlett Publishers, Inc. 1998.
Special thanks/H.Shimono